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新世代のパティシエ

THE OYATSU vol.4|新世代のパティシエ

GUEST|PATH / 後藤裕一(ごとう・ゆういち)
大学卒業後、「オテルドゥミクニ」へ。新宿「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」を経て渡仏。ミシュラン三ツ星レストラン「メゾン・トロワグロ」にて、アジア人初となるシェフパティシエとして活躍。2014年に帰国後、新宿時代の同僚・原太一シェフとともに富ヶ谷に「PATH」をオープン。




大谷:今日、トークを進めるのは、この企画の主催している301の大谷です。よろしくお願いします。ゲストとして、「PATH」の後藤裕一さんにいらしていただいています。そして、この企画で継続してゲストシェフのコーディネートという形で協力いただいている「Salmon & Trout」というお店の森枝幹シェフです。

森枝:よろしくお願いします。

大谷:それでは、今回のゲストである後藤さん、自己紹介をお願いします。



後藤:こんばんは、はじめまして。後藤と申します。去年の12月から、代々木八幡駅や代々木公園駅の近くで「PATH」というレストランをやっています。僕は、パティシエですが、お店のコンセプトとしては、原太一という料理人と一緒に、料理人とパティシエがお店を一軒作ったらどうなるのかというところから始まっています。

メインは、夜のコース料理をメインにビストロのような料理を出しつつ、朝食もやっています。僕は、今までレストランで働くことが多かったので、自分のことを「レストランパティシエ」と呼んでいます。なので、今日は、いわゆるお菓子屋さんではないところで働いているパティシエもいるんだよということを、みなさんに知ってもらいたくて、話をしていきます。よろしくお願いします。

大谷:ありがとうございます。みなさんに会場に入ったタイミングで食べていただいた、「Cube」というタイトルのOYATSUですが、簡単にご説明をいただければと思います。

後藤:まわりの白い部分は、乾燥させたメレンゲです。その中にブラックベリーを、シェリービネガーでマリネしたものを入れました。あと、白いとろっとしてきたものが出てきたと思うのですが、それは、ストラッチャテッラというチーズです。このチーズは、渋谷の「CHEESE STAND」さんに作っていただいたもので、会場に藤川くんが来てくれているのですが……。

大谷:ありがとうございます。何か一言、お願いします。



渋谷「CHEESE STAND」の藤川と申します。「ブラッター」というチーズご存知ですか?ブラッターの中に入っているチーズが、ストラッチャテッラなんですけれども、モッツァレラを割いてクリームと和えたものですね。乳酸菌の発酵の力で、チーズの持つ酸味と甘みを楽しんでいただけるチーズになってます。今日はすごく素敵なデザートにしていただいて、ありがとうございます。

大谷:ありがとうございます。今回、OYATSUとして開発していただいた「Cube」ですが、これがどういう形で作られたかを紐解きながら、パティシエという職業について、また、後藤さんのものづくりへの思想を紹介できればと思います。今回は、4つの切り口から、お話を伺っていこうと思います。



味よりも先に、どんな体験をしてもらいたいかを考える

さっそく1つめは、「体験を作る」というテーマで、話していこうと思うのですが、これは、後藤さんとお話をしてきたなかで、すごく独特な発想の仕方だと思ったので、掘り下げていきたい部分です。まず、今回のOYATSUで、いわゆる料理でもデザートでもないものを作るという発想に至った経緯というのは?

後藤:レストランのコースでは、デザートを食べてもらうときに気にしているのが、どういう形で食べてもらおうかということです。”形”というのは目に見えるビジュアルという意味だけではなく、どういった”スタイル”で食べてもらうかという意味です。例えば、温かいスフレのふわふわのものを食べてもらって、何を感じてもらうかとか。冷たいグラニテというシャーベットを、コースとデザートの間に挟んで、口の中をリフレッシュしてもらうとか。

大谷:立方体にしている意味は、どうですか?



後藤:実はこれ、普段コースで出しているデザートと外身だけ一緒なんです。コースのデザートの場合は、中にアイスクリームを入れています。形としては、立方体をただ置くのではなく、立たせてもいるので、みなさんの反応としては、「四角だ!」という感じではなくて、「なんで立ってるの?」と言ってもらえて、そういう驚きを狙ってますね。

大谷:食べるときに、自分で立方体を割るということも、体験ですよね。

後藤:そうですね。

大谷:今日も、自分で割るという作業を、食べる前にみなさん体験されたと思います。



後藤:みなさん、割り方で性格出ましたね(笑)

大谷:どういう感じでした?

後藤:女性の方は、思いっきり割ってくれて、男性の方はあれ、割れないみたいな場面が、結構ありましたね。レストランでも、そういうふうに割ることで会話が1つ、2つ生まれたりして。

大谷:次に、「体験を作る」ために、どういうアプローチでメニューを考えていくかを聞きたいと思います。普段のメニュー作りは、どこからスタートしていくものなんですか?

後藤:どういうスタイルで食べてもらうのがいいかをまず考えます。僕は、あまり味的なところからは考えないですね。

大谷:その辺は、いわゆる料理のアプローチとは違う方法だったりするんですか?

後藤:そうかもしれません。食材を組み合わせて味を考えるということに関して、僕は思い浮かびやすいタイプで。季節のいちごが美味しかったら、何を合わせればいいかということは、ぱっと浮かんできますが、そこにはめ込むためのパーツみたいなものを、考えることが重要だと思っています。例えば、食材の堅さや、外気の温度、季節感など、体験に繋がることをまず考えますね。

大谷:どういうときに思いつくんですか?

後藤:どうですかね……結構、トイレで思いつくんですけど(笑)逆に、雑誌を読んだり、レストランに行ったりは、やり過ぎないようにしています。アイデアが引っ張られちゃって。なるべく、自分の中から出るようにはしたいと思っています。

大谷:それは意外ですね。海外で働いていたので、情報を収集していると思いきや。

後藤:フランスにいた時は、田舎のレストランだったので、良い意味で入ってこなかったです。

大谷:メニューを変えるタイミングのお話を伺ったとき、面白いなと思ったことがあって、その話をぜひ。

後藤:フランスでは、「トロワグロ」というレストランで働いていたのですが、1ヶ月に1回メニューを変えるというスタイルではなく、季節の食材だったり、良いものが出てきたタイミングで変えようというスタイルでした。僕的には、作っているのがちょっと慣れてきちゃったかなという感覚が芽生えたら、なるべく変えたいなと思ってて。なぜかと言うと、作ってる自分にとっての驚きも、お客さんに伝わると思うんですね。デザートをお客さんに持っていった時に、「これどうですか、面白いでしょ?」って、そんなこと言わないですが、そういう感覚で出したい。完全に流れ作業になってしまうと、変えたいなと思います。

大谷:なるほど。でも、すごく勇気が必要ですよね。お客さんも、慣れたものとか、定番のものを期待していったときに、出なかったときのがっかり感って、ちょっとありますよね。

後藤:それをまた更新していくのが大変で、辛いですね(笑)でも、それも楽しみつつという感じですかね。

大谷:さっき、季節感という言葉が出たのですが。以前、デザートで、季節とか旬は、どう捉えているんですかという質問をして、面白かったことがあって。まず、季節や旬の食材ありきで、そこから何を作るかレシピを考えていくという作り方が、普通だと思います。ただ、後藤さんは、ちょっと考えが違いましたよね。

後藤:僕は、なんとなく空気感のことを考えていて。旬というよりも、季節感という言葉が近いです。例えば、夏に暑い中お客さんが入ってきて、デザートを食べた後に、どういう空気感のところへ出て行くのかと考えたとき、やっぱりデザートはさっぱりとしたもののほうがいいのかもとなりますね。冬だったら、温かいものを出して、温かい気持ちで帰ってもらうとか。僕の場合は、食材というよりも、どういう体験をして、食べたときの感覚を持って帰ってもらうかを考えますね。だから、デザートを考えるときには、何かしら体験を生み出す枠をまず作ってから、どういうふうに食材を当てはめていくかを考えます。



大谷:あと、以前にコースの話をしたときに印象的だったことがあって。料理を出していく流れの中、デザートを出すタイミングで、メイン料理の余韻を楽しめるようトーンを落としていくのではなく、デザートでまた別の方向に切り替えて盛り上げていくんですよね?

後藤:コース料理という感覚で召し上がっていただくと、デザートって最後の最後に余韻として楽しんでもらうというイメージがあると思います。それは、高揚した気分を沈めていって気持ちよくお店を出るということだと思うのですが。僕は、メイン料理を食べ終わって、さぁ終わるかといった気持ちの準備をしているところに、あえてイメージと違うものを出します。すると、「わぁ何これ」というような驚きを与えられて、もう一回楽しんでもらえるかなと。

大谷:それもやっぱり気分の作り方がポイント?

後藤:そうですね。気持ちを高めてもらえるのって、味というよりも体験だと思うんですね。ただ単に「美味しかった」で終わってしまうところを、「あ、何でこれ立ってるの?」とか「このザクザクしている食感なんだろう?」とか、実際に味覚以外の部分を使って食べてもらうことが重要かなと思っています。

大谷:ペアリングの話をしていたときに面白いと思ったのが、味ではなく、色で合わせるということ。大まかに言うと、ペアリングは、食事にドリンクを合わせるときには、同じ方向の味を合わせていくか、相反する味を合わせていくかの2つのアプローチがあります。で、辛いと甘いとか、相反するものを組み合わせるのは、同じ味を合わせるよりも、難しいんじゃないかという話をしたときに色が出てきたんですよね。そのときに補色の話を、後藤さんから聞けて面白いなと思いました。

後藤:例えば、甘いものにしょっぱいものを合わせるのは、色相環でいったら、正反対に位置している色同士で合わせる補色の感覚に近いと思うんです。赤色に緑色をアクセントで入れるとか。

大谷:僕らは、普段グラフィックやウェブデザインを作っていて、色についても考えるのですが、食の話で色について言及していたのは、不思議です。

森枝:うちのソムリエは、音で言いますね。酸味がハイだったりとか。

大谷:音の感覚に例えて理解するみたいな。的確ですか?

森枝:的確だと思います(笑)



不揃いな形が、驚きと美味しさを引き出す

大谷:今度は、2つめ。「不安定と不均衡」というテーマです。このテーマを出したのは、美味しいものや面白いものは、不安定とか不均衡なところから生まれるという話を後藤さんがしていて。

後藤:そうですね。真四角が綺麗だと思うのと一緒で、ただ美味しいとか綺麗って当たり前で何も感じないと思うんです。だけど、例えば、真四角の角のひとつが消えているとしたら、「あ、なんで消えてるんだろう?」と、心に引っかかりが生まれますよね。実際、今回のOYATSUも不安定じゃないですか。揺らしたら倒れちゃうんじゃないかというくらいに。その感覚が、「わあ、何だろうこれ?」という感覚につながっていくのかなと。

大谷:「心に引っかかりを生む」という表現をされていたと思うのですが、1つめの「体験を作る」というところに繋がっているような気がします。そこは、意識している?

後藤:そうですね。パティシエの仕事って、型を多用するんです。シリコンや金属の型なのですが、それって結局、均等に綺麗に作るだけで終わっちゃう感じで。フランスのときに出していたデザートで、全員違う形のデザートを出したことがあります。一枚のムースのシートを作って、カットするのは大体の大きさが合ってればいいやと、あえて綺麗にならないように手で切ってました。そうすることで「形が違うね」とテーブルで会話が生まれてくるんです。

大谷:不安定の話で言うと、ハイヒールの話が面白かったですね。

後藤:あのかかとの細いラインで人の体重を支えてるというのは、普通に考えたら、ちょっとおかしいと思うんですよね。それが当たり前だから、普通に見えるのですが。ああいうアンバランスな感じがあるからこそ、魅力的に見えるのだと思います。

大谷:そういう感覚が、心に引っかかりを生むということ?

後藤:はい。ふとお客さんが考えるような要素が重要だと思います。

大谷:今回のOYATSUもそうですが、均等に混ぜられたものよりも、不均等なものを口に入れた方が、味覚的にも面白さを出せるのでしょうか?

後藤:はい。メレンゲは甘いのですが、中のチーズがクリーミーでちょっと塩っぽさもあり、シェリービネガーというお酢でマリネしたブラックベリーの酸味を加えています。あえて最初に全部の味を混ぜて、おいしい味を作るのではなくて、それぞれの味を口の中に入れてもらって、別々の味を一瞬で楽しんでもらうところが、面白いと思いますね。



大谷:前回のTHE OYATSUのゲストであるバーテンダーのソラン君が話していたことで言うと、バーテンダーも味を構成するときに、「味に立体感を作る」という話をしていました。それは、構成要素を1つにまとめるのではなくて、あえてばらつきを生み出しながら、全体の味の構成をうまくまとめていくみたいなことだと思うのですが。そういう感覚は、近いですか?

後藤:そうですね。口内調理と言われています。そういう感覚にも近いのですが、不均等とか不安定という感覚では、僕はちょっと違うと思っていて。自分の口の中の感覚の枠にハマらないところが気になるみたいな。歯に何か挟まっちゃったけど、それが気になるみたいな、そういう感覚に近いのかもしれません。

大谷:味の感じ方というよりは、触覚とか感覚寄りですかね。

後藤:そうですね。味覚という側面ではなくて、食感とかそういうものに近いと思います。

大谷:例えば、料理のなかでは具体的にどうやってそのような要素が落とし込まれているんですか?

後藤:朝食でサンドイッチを出しているのですが、挟んでいるハムをわざと手で切っているんです。普通は、なるべく薄く切りたいと思うのですが、人の手だと、厚めになってしまったりと、不均一さが出ます。すると、食べているときに、しっかり噛まないと噛み切れない厚い部分が入ってきたり、溶けるような薄さが入ってきたり、ハムというものを意識しながら食べてもらえます。不均一にすることで、美味しさが伝わりやすいのかなと。

大谷:クロワッサンも同じ?

後藤:はい。クロワッサンって綺麗に伸ばさないとできないんですよね。大体のパン屋さんやお菓子屋さんだと、ラミノワという均一に伸ばせる機械があります。うちはあえてというか、スペースがないんですけど(笑)、自動ではなく、手で回す機械を使っています。機械と言えば機械なのですが、厚さは、目で確認するしかなくて。あえて決められたものではなく、見た目で厚いのか、うすいのかを探る。下に敷いている板が湿気で曲がっていて均等に伸ばせない時があるのですが、伸ばしているうちに、「今日は、この生地の感じだと厚くても良いかな」と、なるときもあります。

大谷:ちなみに、PATHのお店行ったことがあるよという方は、どれくらいいらっしゃいます?あ、意外と少ない。打ち合わせと食事で何度か伺わせていただいたのですが、お店に入ると、入ったところで後藤さんが作業してるんですよね。しかもお客さん側で作業していて。何をしてるんだろうなと思ったら、クロワッサンの生地を伸ばしているんです。それを自然にやってる感じが、ちょっと面白いかなと。

後藤:最初は厨房内でやっていたのですが、だんだんと場所がなくなってきて、もう良いかってカウンターのところでやり始めて。カウンターにもお客さん入ってきてくれたら、また別のところに移動して、もう追いやられてるんですけど(笑)でも、やっていると来てくれたお客さんたちがみんな、何やってるんだろうという感じで見てくれたり、そこから会話が弾んだりして、空気感としてはよかったかなと。

大谷:これは余談ですが、作る場所が定まっていないような感じがするのですが、なにか意味があるんですか? 後藤:いや、模索中です。真ん中のカウンターがあるところで前はやってたのですが、最近は、入り口のテーブルでやってます。



パティシエの特殊能力

大谷:では、3つ目。「0から1を生む」というテーマなのですが、これはパティシエ特有の発想かなと思っていまして。この話をする上で、一番印象的だったのは、「アベンジャーズ」の話かな。

後藤:パティシエが主に使う材料は、砂糖・卵・乳製品・小麦粉なのですが、どれも形がないんですね。つまり、0から作らなければならなくて。そのままお肉や魚として焼ける訳でもなく、何かしら自分たちで作業した上で、形を作らなければならないというところは、パティシエ特有ですよね。

大谷:で、「アベンジャーズ」の話を(笑)

後藤:「アベンジャーズ」って特殊能力者がいっぱいいるじゃないですか。ヒーローたち個人でも活躍できちゃうような人たちで、そのスペシャリスト感に憧れます。特殊能力者の料理人と一緒に何かを作るみたいな、そういうチーム感が好きですね。だからこそ、ソムリエやサービスマンといったエキスパートのいるレストランが好きです。これは、レストランで働いてるパティシエにしか、味わえないものなのかなと思いますね。

大谷:パティシエの特殊能力感というのは、例えばどういうことなんですか?

後藤:形のない材料から何かを作るという点ですよね。今回のOYATUで使ったメレンゲは、もともと、とろとろなんですよ。それを自分で切って、薄く伸ばして、四角い形を作っています。

大谷:数字とか計算に強いとも、おっしゃっていましたよね。

後藤:慣れというところもあると思うんのですが、レシピを見て、何グラム入っているかで味の印象は分かるようになってますね。で、何かしらを何グラム抜けば良くなるとか、自分の中では物差しがあると思っています。試食したときに、自分の物差しのなかで、ストライクゾーンがあって、そこから甘さがずれているなとか、もうちょっと酸味があると良くなるな、とか。 大谷:この感覚は特殊だなぁと思いました。要は、食べたときにメーターみたいなものが反応するということですね。絶対音感的なものも感じます。

後藤:それってみなさん持っているものだと思っていて。自分がおいしいと思えるストライクゾーンがあるんですよね。そこを意識して食べると、何が足りないかとか分かりますよね。



大谷:それが、グラム単位で分かるというのは特殊ですよね(笑)

後藤:いま、カヌレという焼き菓子を出しているのですが、試作したときは、一口食べておいしいと思って。でも、それだと、一口食べたら満足してしまいますよね。だから、あえて砂糖を10グラム減らしたんです。すべて食べ終わってから、もうひとつ食べたいなという感覚を生み出せるかなと。

大谷:実際に食べさせていただいて、言われたからだと思うのですが、その感覚はよく分かる気がして。

後藤:誘導してしまいました(笑)

大谷:(笑) 数字に強いとのことでしたが、これはパティシエ全般に言えること?

後藤:仕事を始めたときから、まず大事だと言われるのは、計量なんです。決まった分量を測るというのは、簡単なようで結構難しい。そこで鍛えられているとは思いますね。

大谷:なるほど。料理の場合は、肉や魚といった食材に依存するところがあると思うのですが、デザートを作るときには、何を想定して作っているんですか?

後藤:フランスで働いているときは、シェフのミッシェル・トロワグロさんが、現代アートなど美術的なものが好きで、そこから発想を得ていたみたいです。彼は、マーク・ロスコが好きなんです。僕は知らなかったので、どんな人か聞いてみると、プリントアウトしたものと説明文を書いてくれて。そこから、どういうものを作るかシェフと話し合っていきましたね。

大谷:現代アートから影響受けるというのは、料理のなかでは珍しい?

後藤:他ジャンルに興味を持つ人は増えているのかもしれませんね。作ったデザートは、マーク・ロスコの絵自体に似ているわけではないのですが、ゼリーのピンク色と、その下に栗の茶色いゼリーを敷いているんですね。実際に見てみると、境目のところの色がきれいに混ざっていて、これはマーク・ロスコの作風を模しているんです。

大谷:トロワグロの話が出たので、話したいのですが、トロワグロはなんだか型にはまっていないですよね。

後藤:フレンチと聞くと、テーブルクロスを敷いて、なんだかフォーマルに食事をしないといけないと思うのですが……。2013年にトロワグロが内装を改装したんです。そのときに、テーブルクロスを敷かずにランチョンマットで、大きかったイスもオフィスみたいなクルクル回るものになって。「実際、この改装ってどうなんですか?」と質問をシェフにぶつけてみたら、「だって食べやすいでしょ」という答えが返ってきて。言っていいのか分からないのですが、時々使っているカトラリーは、アレッシーといういわゆる家庭で使われるような値段帯のもので。あまり型にはまらないで、お客さんにとって居心地のいい環境を作ったら行き着いた形みたいですね。



大谷:トロワグロや、後藤さんの姿勢ってとってもピュアな気がしていて。3つ星レストランは、こうあるべきだとか、フレンチはこうあるべきとか、すべて無視してやっているところは、すごい。そこから影響を受けることはありますか? 後藤:すごく影響を受けました。日本で働いていたときは、1センチ切るにも、ミリ単位の仕事をしていて。フランスに行ってシェフと深く関わったおかげで、テーブルごとに形を違うものを出すなど、不均一、不均等のものこそが面白いと思えるようになりましたね。



PATHが作るパティシエの新しい選択肢

大谷:それでは、テーマの4つ目、「パティシエの未来」に行きたいと思います。「PATH」がどのような経緯で生まれたのかということに関わってくるのですが、まず、レストランパティシエという職業はどういうものなんでしょう?

後藤:パティシエ=ケーキ屋さんと思われるのですが、レストランで働いているのも、パティシエなんです。レストランパティシエは、デザートを作ることがメインですが、役割としては、食事全般のサポートもします。両者は、考え方が真逆というか、発想のスタート地点が違います。いわゆるパティシエは、ショーケースがあって、持ち帰る用の箱があって、最終的に完成するゴール地点を目指して作っていく発想のやり方です。対して、レストランパティシエは、何をしてもいいという感覚があるので、制限がありません。

大谷:デザートを出すタイミングは、コースのなかで決まっているんですか?

後藤:メインの食事の後に出すのですが、途中に出しても面白いんじゃないかという話も出ます。お皿を使わずに、テーブルに直接置いて、その場でソースをかけるというプレゼンテーションをしているレストランもありますね。

大谷:「パティシエ」とひとくくりにされることに対して思うところがある?

後藤:そうですね。僕、ケーキ屋さんとの友達が少なくて(笑)料理人の友達が多いのですが……。



森枝:領域を横断している人も、多いですよね。

後藤:ケーキだけをやるという人もいますし、料理にも興味があるという人もいますし、分かれますね。

大谷:今回のOYATSUのようにデザーとにチーズを取り入れるような、デザートでも料理でもない感じは、レストランパティシエであることと繋がっているんですか?

後藤:ガストロノミーと呼ばれる料理のコースでは、デザートの前にチーズが挟まれるんですね。そこで僕は、チーズとデザートの間を表現してみたくなったんです。なので、一皿で完成するように、甘味と塩味も入れてみました。

大谷:シェフと一緒に「PATH」を立ち上げたということで、朝8:00から朝食をやって、夜はしっかりコースもやっているというのは、形式として特殊ですよね。その形に辿りついた経緯はどうのようなものだったんですか?

後藤:パティシエは、檻のなかというか、日の入らないところで仕事をしているので、まず前提として窓を作りたいねと話していました。お客さんはもちろん、自分たちも気持ち良く仕事したいということで、二人が好きな朝食を作るということにつながっていきました。

大谷:シェフとパティシエが組むことによって、実現できるのは、どういう点ですか?

後藤:パティシエがカフェを作っただけでは、表現できないクオリティの料理が出せるというところと、料理人では作れないデザートを作れるところですね。例えば、サンドイッチのパンを僕が作って、シェフがハムを作るというのは、一回限りのものでは実現できない深いコラボレーションだと思います。

大谷:少し話を戻すと、体験を作るという点では、朝食や焼き菓子を作ることは、どう関係しているんですか?

後藤:朝は、驚きのあるもので、びっくりしたいという気分ではないですよね。普通は、安心して食べたいと思うはずで、基本的なクラシックなものを作りつつ、味や食感で、もういちど食べたいと思えるような形で、6心のひっかかりを生むものを作りたいと思っています。

大谷:先ほどおっしゃっていた、砂糖のグラム数を調整するという話ですね。「PATH」の世界観ってカジュアルな雰囲気を出しつつ、本格的な料理を出すという、オープンマインドな雰囲気も兼ね備えているのですが、それはどういう影響なんですか? 後藤:ただ仕事をして、製造をしている毎日から抜け出したいという思いがあったのですが(笑)トロワグロでは、従業員同士は家族みたいでしたね。仕事が終わったあとに、みんなで飲みに行って、シェフと肩を組むとか、そういうラフさも影響してますね。

森枝:「PATH」では、朝、キッチンに入ると、握手するんですよね?

後藤;それもフランスの名残ですね。握手をすると、体調がわかったりすることがあるんですよ。あれ、今日、ちょっと握り弱いな、とか(笑)スキンシップも大切だと思います。

大谷:材料の袋が、客席側の端に置かれていたのもびっくりしたのですが、それは意図的に?

後藤:半分、意図的ですね。海外と日本で働く感覚が一番違うと感じたのは、お客さん側とお店側の立ち位置ですね。海外では、お客さんと僕らの関係が、平等であることが多くて。だから、カウンターと厨房に、境目を作りたくないんですよね。



大谷:なるほど。向こう側とこちら側を意識させないようにしている。

後藤;材料が足りなくなったら、客席から取ってくるという動きは、実はお客さん側からしたら、あまり気にならないと思うんですよね。

大谷:不思議な心地よさがありますよね。

後藤:僕たち働く側もそう思っていて、すると、お客さんにもそれが伝わっていって、居心地の良さにつながっていると思います。

大谷:今まで「PATH」でやってきたことは、後藤さんが考える、これからのパティシエのあるべき姿というものが反映されているのでしょうか?

後藤:レストランパティシエの場合だと、独立する際に、レストランをやらないと独立ということになりにくいんです。ただレストランをやってしまうだけだと、雇ったシェフの料理がメインになるので、パティシエはどうしてもサポート役にならざるを得ない。もしくは、大体がお菓子屋さんになるんですね。そういう状況もあって、パティシエの選択肢を増やしたいなと。

大谷:そうではない形を 「PATH」でやろうとした?

後藤:そうですね。例えば、デザートは、コースの最後に出されますが、朝食だとみんなが最初に気にするのは、パンですよね。そうやって朝から夜にかけて、それぞれが活躍できる場所を一軒のなかに集約したいと思って「PATH」を作りました。 大谷:実験的なお店として「PATH」をやっていると思うのですが、今後、後藤さんがやってみたいことはありますか?「パティシエの未来」の話も含めてお聞かせください。

後藤:「PATH」をやりつつ、研究や試作をできる自分のラボスペースを持ちたいです。

大谷:具体的なところではどんなことを?

後藤:テイクアウトができる製造ラインを持ってみたいです。レストランとして営業しているので、テイクアウトを行うためのハード面を用意できていないのが現状なので。朝をやりつつ、夜のコースをやることは、ハードですよね……。身体的にということではなく、お客さんの対応をしつつ、新しいものを生み出していくというのが大変。クリエイティブなところに目を向けることのできる拠点が欲しいです。

大谷:最後に、これから来ていただく方に向けて「PATH」の楽しみ方を一言で。

後藤:もう……いつでも来てください(笑)朝は、コーヒーを一杯でもいいですし、夜は、ワイン一杯でも楽しんでいただけますので。

大谷:お気軽にお越しください(笑)本日は、ありがとうございました。







EVENT INFOMATION

THE OYATSU vol.4|新世代のパティシエ

DATE= 2016 / 4 / 25(Mon)
TIME= 19:30 open / 20:00 – 22:00
PLACE= FabCafe(東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア1F)
MORE INFO=
内容: OYATSUの実食 / トークショー / 懇親会
費用: 2,000円(ワンドリンク+OYATSU込み)
定員: 50名予定

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