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不自由で自由なビール

THE OYATSU Vol.6|不自由で自由なビール

GUEST|sansa / 橋本一彦(はしもと・かずひこ)
1985年生まれ。北海道出身。札幌のビアバー「麦酒停」で勤務。その後都内レストラン各所でフード、サービスについて学び、2012年「sansa」を立ち上げる。現在は「sansa」の店主としてビールという酒の懐の深さと可能性を日々探求し続けている。




クラフトビールブームから見る時代の流れ

大谷:それでは、始めようと思います。ゲストをご紹介します。ビアバー「sansa」の橋本さんです。それから、ゲストコーディネートをしている代沢の「Salmon & Trout」の森枝くんです。

橋本:よろしくお願いします。今日は、来ていただきありがとうございます。橋本と申します。トークが苦手なので、温かい目で見守っていただけると嬉しいです。僕は、赤坂で「sansa」というビアバーを始めてちょうど4年くらい経ちます。取り扱っているビールは、普段飲まれているものとは少し違うような変わったものを多く扱っています。そんなかんじですね。

大谷:詳細は、後々聞いていこうと思います。ちなみに今日ビールが好きだから来たという方は、どのくらいいらっしゃいます?意外と多いですね。今、クラフトビールという言葉がブーム的に語れてきていて、日本のビールを取り巻く状況が目まぐるしく変わっていますよね。そこで、今、ビールの現在地点はどこなのか。または、世界の中でビールはどのように語られているのか。そんなことを、最初に聞いていこうと思います。ビールは今どういう状況で、sansaはどういう立ち位置なのか、お聞かせください。

橋本:ざくっと僕がビールに携わってからのお話をさせてください。いわゆるクラフトビールと言われるものに初めて携わるようになったのは、10年前です。日本にクラフトビールという言葉が入って来てるかどうか、地ビールと区別されていないようなそんな時代でした。ビアバーは、全国各都市に1、2軒ほど存在している程度だったのですが、当時は、ビールを好きな人が、趣味が高じて始めたようなお店が多かった。でも、今は商業的な理由でビールを取り扱うお店が増えてきています。そこが、10年間でガラっと変わった点ですね。特にここ2、3年ですね。

大谷:趣味の延長線上で作ったお店の特徴はありますか?また、変化を受けて、sansaは、どのように変わっていきましたか?

橋本:僕たちが使っているビールは、一杯1000円するんです。当時、500円で仕入れていたとすると、1000円で売っているのは、飲食店側からすると、安売りしている値段設定なんですよ。普通は、3倍程度で売るので1500円になりますね。それは、どういう状態かというと、好きだから安く売るということなんですね。お客さんとしては、一杯500円くらいのスーパードライとかに慣れているから、1000円は、ちょっと高いビールを飲むという感覚で。そこにギャップがありました。それから、サービスなどでビールに付加価値を付けていった結果、適正価格で取り扱われるようになってきています。



大谷:恐らく日本だけではなく、世界的なクラフトビールブームがここ数年で起きていると思うのですが、それはなぜなんですかね。

橋本:これは個人的な見解なのですが、日本では「クラフトビールマーケット」というお店ができたからということがひとつあると思います。今までの話とは、少し異なるのですが、ディスカウントしてよりカジュアルな楽しみ方を打ち出しているお店です。従来のビアバーと大きく違う点は、料理とサービスを意識的に入れたこと。それで、雑誌などに露出するようになって知られるようになったのが、ひとつのきっかけだと思います。どれくらい人気があったかと言うと、冬にテラス席で立ち呑みをする人が出てくるくらい。ここから、ビジネス的にもチャンスがあるんじゃないかということで、一気にお店が増えていきましたね。

大谷:その頃は、ビール好きのお客さんはいたんですか?

橋本:新しいモノに対して、好奇心を持っている人が多かったんだと思います。ビール好きの人が行くというよりは、新しいしちょっと行ってみようというカジュアルな形で興味を持つ人が増えていったというかんじですね。昔のビールのお店ってマニアックなものを扱っていたし、排他的だったんです。

大谷:なるほど。世の中的には、お酒以外でもDIY的な雰囲気で、自分たちがいいと思うものを作るという流れが世の中的にありましたよね。クラフトビールは、その流れのなかのひとつだと思うのですが、橋本さんの印象はどうでしょうか? 橋本:「クラフトビール」という名前が付いたことは大きいと思います。アメリカから名前と一緒に流れが来ましたね。情報が溢れるようになって、個性的なものを求める時代の流れがあったのかなと思います。お酒だけではなく、自分の着ているものや、小物、家具にも同じことが言えると思います。

大谷:ちなみに森枝くんに聞きたいのだけど、最近は飲食店のなかでもワインの他の選択肢としてビールのセレクトやペアリングが広がってきていると思うけど、料理人としては今のビールの状況ってどう思う?

森枝:正直、まだまだかな、と思います。ミシュランの星が付いているレストランでも、大手メーカーの質がいいラインのものを使っていたりだとか、味わい的にもキレがあってクリーンな味を中心にセレクトしています。酸味の強いビールのような癖のあるものに果敢に挑戦する飲食店は少ないのが現状かなと。

大谷:サーモン&トラウトでは、どう考えていますか?

森枝:うちは、たまに扱ったりするのですが、ペアリングする種類が少ないのが現状です。



伝統から逸脱した個性的なビールを生み出すアメリカ

大谷:次に、「世界のビール事情」に行きます。日本で飲めるビールの種類が増えてきているとはいえ、いまだに世界のビールのなかでもごく一部のものです。なので、世界的に見たときにどういうビールが面白いとされているのかお話を伺えればと思います。

橋本:世界のビールなんですけれど、4つほどに分類できます。まず、イギリス。黒ビールとか常温で飲む文化があります。次に、ドイツ、チェコ。クリアで苦味のあるビール。もうひとつは、ベルギー。ここは変わっていて、修道院で作っていたり、フルーツを使ったり、個性的なビールが多いです。



大谷:日本で流通している銘柄が分かると想像しやすいかもしれませんね。

橋本:イギリスだとギネスとか。ドイツだとレーベンブロイ。ベルギーだと、ヒューガルデンホワイトという白ビールですね。実は、そこから大きな変化がって、今、アメリカがビールのシーンをリードしているのが現状です。どういったことが起きているというと、先ほど言った4カ国のスタイルを踏襲して、オリジナルのビールを作り始めています。例えば、自分たちの国にあるバーボンの樽に漬けてみようとか。そういった実験的なことをやっているのがアメリカのビールの特徴です。
それって元からあるオリジナルの一線を超えているようなクオリティになっているんです。なんでそれが今まで作られてこなかったというと、あんまりバランスが整っていないものはいいとされてこなかったことがあります。さらに、イギリスやベルギーは、アメリカのビールと似たたようなを作るようになっています。

大谷:sansaで扱っていて、今回の OYATSUにも使っているビールのことについても教えてください。

橋本:今回使うのは、スイスの「BFM」というブリュワリーのもの。ちょっと変わっている点は、明確にすっぱいんです。アルコールが11%なのですが、ちょっと飲んだだけだと、ビールとは思えないほどの味わいです。もともとワインを作っていた人が、ビールを作り始めていて、そこも変わってますね。ワインとの比較になってしまいますが、ワインは畑でぶどうを育てて、年ごとに天候が変わったとしても、一年に一回しか作れない。ビールは、やり方次第で、2ヶ月、3ヶ月程度で、どんどん新しいものができるので、トライ&エラーをすることができます。なので、新しいことをクリエイションしていこうという人たちが、ワインからビールへと転向することはよくあって。

僕が、このビールを選ぶ理由は、ワインなどの醸造テクニックを持っているような人たちがちゃんと作っているからですね。 大谷:作り手のオリジナリティーというのは、スイスの「BFM」だけではなく、他の国でも見られるものなんですか? 橋本:例えば、イタリアの生産者で地元のぶどうを使ってビールを作っている人がいます。半分以上がワインの素材で作られているものです。

大谷:なるほど。今回のタイトルには、「不自由で自由なビール」と付いているのですが、なかでも「自由」という言葉がキーワードになってきます。自由であることってビールとしての特徴と、今の話にあったような作り手の思想を表していると思うのですが、いかがでしょう?

橋本:ビールって何かと考えたときに、穀物を使った醸造酒ということなるのですが、他のお酒と違う点は、副原料に関して、寛容なんですよ。コーヒーを入れたり、コリアンダーを入れたり、と他のお酒にはない自由さがある。そこにビールの面白さがあると思います。ただ、自由がゆえにルールがなくて、人気が出るからフルーツを入れるなど無法状態になっています。なので、実は技術や文化的背景をかなり勉強したうえで、作らなければならないんですね。そこが不自由な点です。料理人としてはどうですか?創作料理もなんでもありじゃないですか。

森枝:難しいな……。

大谷:では、考えている間に……今日のOYATSUは、すっぱいビールなのですが、みなさん飲んだことってありますか?ああ、ちょいちょいいますね。飲んだことがない方は、どういうことかよく分からないと思うのですが。今、すっぱい味が面白いとなっている理由は何なんですかね?

橋本:最初にクラフトビールがブームになったときは、ホップが大量に使われて苦味の効いたものが流行りました。そうすると、もっと香りがよくて苦いものと、ホップの量を増やしていくことになったんです。ただ、ある地点で飽和しますよね。では、次にどうするか。アルコール度を高くしようとか、ウイスキー樽で寝かせようとか、甘みを足そうとか、いろいろと試したあとに、酸味へ行き着いて人気が出始めています。最初、ボトル4000円で出していたものが、今ではプレミアがついて2万円ほどで取引されているようです。

大谷:IPAなどアルコールの強いものが人気だったのは、日本でも同じだったんですか?

橋本:そうですね。うちでは、柑橘系などフルーティーで苦味のあるものが人気ですね。割合的には3人中2人は飲んでいますね。



森枝:酸味の話で言うと、コースで長い時間をかけて食べるというスタイルではなく、食べたいものを食べるというような”軽さ”を求められるようになった時代のなかで、味わいでも、油やクリームよりもクリーンで酸味のある料理を作るようになっています。「NOMA」がそうですね。酸のなかにもたくさん種類があるのですが、日本人ってあまり慣れていない人が多いんじゃないかなと思っています。例えば、シングルオリジンと言われるコーヒーは、味がすっぱいのですが……

大谷:逆に、シングルオリジンが日本で受け入れられたのは謎だよね。

森枝:そうですね。コンセプトやブームに引っ張られている部分もあるんじゃないですかね。

橋本:レモンサワーとかいちごとかフルーツの酸味って頻繁に摂ると思うのですが、ジュースなどの液体になると、甘みが加わって飲みやすいですよね。ただ、すっぱい飲み物というのは飲み慣れていなくてびっくりしてしまう部分があると思うんですよね。フルーツでは食べ慣れているのですぐ受け入れられると思うのですが。

森枝:人間は、甘いとしょっぱいとうまいは、小さい頃から分かるんだけど、酸味は、もともと腐っている味なので、ヤバいなというシグナルが出るんですよね。ただ、発酵などの技術が進化していって酸味もひとつの味として仲間入りしたんです。だから、ある意味、酸味は進化の象徴ですよね。

大谷:だいぶでかい話に持っていきましたね(笑)

森枝:文化人類学的な。

大谷:文化人類学は関係ない(笑)



アイスにかけて食べる、調味料としてのビール

大谷:今回OYATSUで使っている酸味のあるビールの説明も交えて、OYATSUの説明を聞いてもよろしいですか?ちなみに、OYATSUは話を続けながら、みなさんにお配りします。

OYATSUのコンセプトを説明すると、最初に3つのことをゲストの方に伝えています。まず、一品で表現してほしいということ。これまでコース料理しかやっていないというゲストの方もいたのですが、一品でやってほしいとお願いをしています。次に、カジュアルにしてほしいということ。こういう場で食への入り口となるような経験をしてほしかったので親しみやすいものにしてもらっています。最後は、プロトタイプ思考。FabCafeという場所でイベントをやるので、実験的な要素を入れてほしいというお願いをしています。

で、今回、橋本さんに考案していただいたのが、「アフォガート」というメニューです。では、どのような考えで生まれたのかお話お願いします。



橋本:コンセプトは、ビールの自由さを伝えること。カジュアルさとプロトタイプという点では、お店で出している100mm 1000円という一般的には高価なものを、調味料としてアイスにかけてしまうところです。アイスは、ちょっと変わっていて、燻製した胡椒が入っています。どういう経緯で生まれたかと言うと、もともとお店では、すっぱいビールに胡椒をかけて提供していたことがあったんです。

大谷:ここでお配りするのですが、ビールを最初にお渡しして、次にアイスをお渡しします。二段階で少し面倒なのですが、なぜ別にするかと言うと、まずビールを味わって、アイスにかけた後にどのように味が変化するか体験してもらえればと思います。

橋本:ビールの説明をすると、スイスのブリュワリーで、ワインの作り手が、製造しています。作り方が変わっていて、20種類くらいのワイン樽に、同じビールを入れて1年間熟成させた後に、ブレンドします。名前は、「bon-chien」と言います。フランス語でかわいい犬という意味なのですが、作り手の彼は、「bon-chien」というかわいい猫を飼っているんですね(笑)で、猫が死んじゃった時に作ったビールなのですが、10年くらい作っています。

酸味のあるビールのなかでは、長い歴史があります。飲んでいただいたら分かるのですが、すごくすっぱいんですよ。何の料理に合わせるかと考えたときに、ビールに直接、胡椒を入れようと思いついたんです。胡椒を入れると、酸味が収まって、トマトスープのような印象になって、ビールの奥行きが見えてきます。作り手が日本に来たときに飲んでもらう機会があったのですが、作り手ってすでに完成されているものをアレンジされることを嫌うことが多くて。

でも、彼はすごく面白がってくれて、一樽に胡椒をつけ込んで作ってくれたことがあったんです。そのビールを飲んでみると、胡椒をかけたときとはまた少し違ってフルーティさが出ていました。そんな経緯があって、アイスにかけてみたらいいんじゃないかと考えましたね。






グラスからメニューまで細部に宿るsansaの思想

大谷:今までの話は、概論的な話だったのですが、「不自由で自由なビール」をテーマに、実際にお店でどのようなアプローチをしているのか、思想をどのようにお店へと落とし込んでいるのかという話をお聞きしようと思います。ひとつめが、「ワイングラスでビールを」というお話。sansaでは、ビールによってグラスを使い分けているのですが、実際に何種類くらい使っているんですか?

橋本:15から20種類くらいですね。

大谷:なぜ使い分けているんですか?

橋本:ビールは、種類がたくさんあって100とか200あるのですが、それを1種類のグラスで出してしまうのは、僕にとって疑問でしかなくて。それぞれに合ったグラスや提供の仕方があるんじゃないか、と思います。

大谷:打ち合わせのときに、文化的、機能的、感覚的と言っていましたが、それはどういうことですか?

橋本:グラスをセレクトするときのポイントなのですが、まず機能的であること。変わったアプローチをしたいわけではなくて、たとえば、香りを多く含んだビールであれば、空間の大きいグラスにしようとか、口がすぼまっていて香りが閉じこもるグラスにしようとか、ビールがおいしくなるグラスをセレクトしています。

感覚的ということも大事で、このビールにはこのグラスというふうに、ある程度メソッドがあるのですが、たまには遊びを持たせて、お客さんが飲んでいる時間とか、飲む順番によって、グラスを変えています。ワイングラスか、タンブラーかというだけでも随分印象が変わってきます。ワイングラスであれば、細い足を持ったときに繊細なビールだと感じたり、タンブラーであれば親しみを感じたり、と感覚的な部分も大事にしていますね。

大谷:これは、sansaに行って実際に体験してもらいたいですね。次は、「ビールの知識はいらない」です。お客さんがお店に来たときにどういうふうに選んでもらうのか、サービス的な部分も含めてお話していただければと思います。

橋本:知っているべき知識は、提供する側が持っていれば良いと思っています。あまりにも複雑で難しい知識を伝えるのではなくて、今、僕たちが飲みたいものをリコメンドします。たとえば、レストランで肉の焼き方が◯℃で焼いてありますと言われても食べる側としてはそこまで重要じゃないですよね。作る側はもちろん知っていなければいけませんが。飲み手としても知識があった方が楽しみは広がりますが、その分は、こちらが担保するというのが基本的な考えですね。



大谷:これまでのビール屋と違う点があれば教えてください。

橋本:うちのメニューは、名前と醸造所、アルコール度数、生産地があって、あと、僕が初めて飲んだときの印象が書かれています。今までのビール屋のメニューの作り方は、カテゴライズがされていることが多いんです。たとえば、IPA、スタウト、ランビックというように。ピンと来ないと思うのですが、IPAは苦いビールだとか、ランビックはすっぱいビールだとか、それぞれに特徴があって、僕はそういう情報を排除しています。そこはあまり重要ではなくて、味の感覚や印象を伝えたい。今、お客さんが欲しているものを、スタイルに捉われず提供したいです。メニューの情報量が少ない分、直接、聞いてほしいと思っています。

大谷:メニュー以外のサービス面では、どうですか?

橋本:最終的には、話して決めるのですが、たとえば、時間によって決まることもありますね。早い時間に来た方にアルコール度数が高いものを出すのは重たいと感じますよね。そのときは、軽い方から進めたり。逆に遅い時間に来た場合は、うちが2軒目であれば、印象が弱くならないようアルコール度数が高いものを出します。もしくは、明らかに仕事終わりの空気感であれば軽めのものを。そこは、経験値でお客さんから小さい情報をかき集めて、決めています。

大谷:なにか特別な観察の方法がある?

橋本:たとえば、冬にコートを外で脱いでお店に入ってくるか、もしくは、中で脱ぐかというところで、レストランやバーに行き慣れている人かどうかある程度分かりますね。

大谷:なるほど。今日は、 ドリンクメニューとして橋本さんがセレクトしたビールを4種類から注文できるようになっているのですが、どういうふうにレコメンドしているんですか?

橋本:まずうちのメニューよりも、情報量の少ないメニューを用意しました。一言で、印象をまとめています。今回は、20秒か30秒程度しか話す時間がなかったので、分かりやすい内容にしました。あとは口頭で付け加えて進めました。

大谷:どういうやりとりがありました?

橋本:ふたつに分かれていましたね。最初は、時間も早いですし、軽めのものを飲んでもらいたいな、と。最初に、すっきりかしっかりかを聞いて、そこから、すっぱいか苦いかと聞いていきました。



最後まで食事を楽しみ切るためのビール

大谷:今日のビールはsansaに行けば飲めるので、飲めなかった種類などあれば、ぜひ足を運んでみてください。次に「ペアリング」の話に行きましょう。ところで、sansaってビアバーって自分であまり言わないですよね?

橋本:ビール屋とか言ってますね。一応、名前には「beer public space」と付けているのですが、レストラン前のウェイティングのように軽めにも来てほしいし、食事も用意しているのでしっかりと楽しんでもらうのでもいいですし、バー代わりにちょっと1杯ということでもいいですし、ビールが楽しまれるシーンがたくさんあると思っているので、縛られないようにしています。

大谷:sansaは、食事にも力を入れていて、コースもやっています。まだビールと食事をしっかりやるお店というのは少ないのかなと思いますが、食事に力を入れていこうと思った経緯を教えてください。

橋本:僕がレストランへ行くのが好きで、よくごはんを食べにいくのですが。昔は、ビールのお店で食事をしっかり出しているところが少なくて。そこから、やろうと思ったことをがひとつ。ビールでやる意義を考えると、今、若い人たちがお酒から離れているという感覚があって、それは、アルコールを気にしているところがあるんじゃないかと思うんです。だから、ビールにしかできないアプローチとして、ワインと比べて半分以下の低いアルコール度数で食事と一緒に最後まで楽しみ切ることができるというところがあると思っています。

大谷:森枝くんは今の話どう思う?

森枝:低いアルコールというところが気になって、過去に高いアルコール度数のビールが流行ったりしたけど、今の流行はどうなんですか?

橋本:今は、軽い方向に向かっています。ただ、フルフレーバー・ライトボディと言われていて、アルコール度数は低いけど、ホップの香りや苦みは効いているものに人気が出始めています。



大谷:ペアリングの話にいきましょう。食事とビールの合わせ方について聞いてみたいと思います。

橋本:軽いものから重たいものへというセオリーがあるので、そのなかで、バランスを考えて組み合わせています。食材とビールが似ている組み合わせや、ビールの味が引き立つ組み合わせ、逆に食事が際立つ組み合わせなど、単線的ではないですね。

大谷:森枝くん、今日のおやつの組み合わせはどうでした?

森枝:お酒だけだとうまみと酸味しかないことが多いけど、アイスがあることによって乳製品の油の感じとか、甘みが加わっておいしくなっていますね。

橋本:乳製品は、アルコール分が高いほど、油が中和してくれますね。

大谷:OYATSUで使ったお酒は、アルコールが11%というワインに近いパーセンテージです。普通のビールの倍近いですね。でも、その感じがないのは不思議ですよね。

橋本:酸味と、ちょっとした泡と、あとは、アルコール度数の高いビールは、麦をどっしりと使うので甘みがしっかりしたものが多いのですが、それをしっかりと取っているので、重くない作りになっていますね。

大谷:sansaのある日出したコースメニューと仮定して、その流れをご説明していただきたいのですが。

橋本:3,800円のコースをやっているのですが、前菜2つと、スープ、パスタ、それからメインとデザートという形です。最近は、キュウリとチーズとレモンとミントを合わせた前菜を出しています。それに合わせて泡が強くて苦めのビールを出しています。

森枝:それは、レモンピールとコリアンダーが、ビールと合っているということだよね。

橋本:そうですね。次に温かいスープを出します。ビールは基本的に温度が低いので、ここで温かいものを挟みます。次にパスタを出して、メインです。メインは、鹿とか豚とかステーキっぽいものをガツンと出して、最後に季節のフルーツを出しています。

大谷:ひとつの食事に対して、ひとつのビールを合わせていくんですか?

橋本:4杯のセットで用意していて、前菜でそれぞれひとつ合わせて、パスタに合わせて、メインに合わせるという形ですね。デザートは、フルーツにちょっとビールをかけているので、最後まで合わせています。さらに飲む人は、聞きながら増やしたりしますね。



星付きビール専門店の登場と、醸造所のITベンチャー的買収劇

大谷:先ほどの話に絡めて、森枝くんにお話を聞こうと思うのですが、「TØRST」という食事とクラフトビールのペアリングをしているニューヨークのお店があって、奥にルクサスという予約専用の食事スペースがあります。料理人の視点から、ビールと食事の専門店が生まれるなどの世界的な動きはどう感じてますか?

森枝:ニューヨークって世界で最初にトレンドが生まれる場所ですよね。「TØRST」のシェフは、もともと世界1位の「NOMA」で働いていた人で。共同で働いている人も、「NOMA」でビールをセレクトしている人なんです。たしかミッケラーの双子の弟なんだよね。高いレベルのコラボレーションです。結果、ミシュランのひとつ星を獲得しています。

橋本:ビール専門店では、唯一かな。

大谷:このお店は、ビールだけをラインナップして高いレベルの料理を出しているのですが、その点は、料理人としてはどう思う?

森枝:いま、ペアリングの教科書はワインしかないなかで、ビールを使って新しく教科書を作ろうとしている動きに対してはすごく憧れます。日本酒でもそういうチャンスは、すごくあるなと思います。

橋本:先ほどビールの副原料はなんでも入れられるので、ビール自体が料理っぽいというか。コリアンダーやフルーツ、最近は、野菜を入れたものも出てきて。料理っぽくビールを作ることも面白いと思います。



大谷:ちょっと話がズレるのですが、ビールは短い時間で作れることが面白いなと思いまして。若い人が立ち上げたブリュワリーが、大きい会社に買収されるということが起きているのですが、それってITベンチャーで起きていることと似ていると思います。そういう視点から見ると、ビールが面白くなりそうだと思ったのですが、提供している側としてはどうですか?

橋本:ビールの醸造所が買収されるというのは、ここ最近よくある話で、独立して小さいところが急に買われたということも1ヶ月か何件か聞くくらいに頻繁に行われています。

ここからは、個人の見解ですが、買収されることによって流通に乗って広まりますし、品質が安定して価格が落ちてより身近になっていくというのがポジティブな部分です。ネガティブな部分では、ビールブームの火付け役がアメリカだったということもあるのですが、もともと売れなさそうなビールを作っていたんですね。苦すぎるものだったり。そういうものが後から人気が出てきてということがあって。つまり、自分たちのやりたいことをやって、そこに需要が付いてくるという流れがあったのですが、大手が絡むと、基本的にそれがなくなります。売れないものは作れなくなるので、自分たちのやりたいものが作れなくなるんじゃないかという懸念があります。



ビールの本質を追求したsansaの次のステップとは

大谷:カジュアルさや自由であることが、ビールだけではなくて、お店としてコンセプトを追求しているところが面白いなと思います。そんなsansaが、これから挑戦しようと思っていることがあれば、具体的にお聞きできればと思います。

橋本:ビールは、いろんな楽しみ方があるので、それを気軽に楽しんでもらいたいと思います。今、お昼の時間にインポートの仕事を手伝っていて、sansaのお客さんだけではなくて、ビールを取り扱う人にも幅広く広げていきたいと思っています。

大谷:インポートっていうのは、海外のお酒を国内のお店に販売するということ?

橋本:そうです。海外でいいなと思うビールを見つけてきて、日本に紹介をします。日本のビールの作り手にも、海外の自由な発想のお酒を飲んでもらいたいというのもありますし、業界自体に刺激を与えていきたいです。

大谷:他にはありますか?

橋本:お茶…ですかね。ビールと同じ感覚を感じることが最近よくあって。僕は、日本の文化をあまり知らずに来たんですよ。お茶や日本酒は、ちゃんと飲んだことがなくて。ただ、ビール関係で知り合った海外の人間と話して彼らのカルチャーを教えてくれるのですが、日本のことを伝えようとするとあんまりないんですね。そこから入れ込むようになったのがお茶でした。お茶って一般的にペットボトルのお茶の印象が強いのですが、だしみたいなものもあれば、発酵してすっぱいものもある。こういうものって言葉では知られているけれど、本質は知られていないものだな、と。

実際に自分の生活にお茶を組み込んでみると、新しいアイデアが湧いてきます。例えば、ビールでお茶を点ててあげるとか。



自由を得るために、不自由さを受け入れる

大谷:最後に、ビールを取り巻く状況がより面白くなっていくために、橋本さんのような提供する側がどうあればよいか。また、お酒を飲む人たちがどうあればよいかをお話できればと思います。

橋本:提供する側だけではなく、作り手まで話を広げると、ビールに捉われず、いろんなものを経験してほしいと思います。ビールも飲むし、お茶も飲むし、小説も読むし、山にも登る。単線的ではない、いろんな感覚から、仕事に結びつけていくという要素が必要なのかなと思います。作り手は、大手と小さな生産者という2軸があると思うのですが、大手はもっと身近においしくて高品質かつ低価格なものを作っていってほしいなと思います。小さい生産者は、世界にどんどん発信していってほしい。あとは、地元の文化に根付いた作り方でオリジナリティを出していってもらえると楽しくなるだろうと思います。

大谷:料理側の視点から、日本のビールの状況ってどうなったらいいなと思いますか?

森枝:日本のブリュワリーがいろんな挑戦をしていけばいいと思うですが、なぜそれをしないかと言うと、やっぱり売れないからだと思うんです。逆に言うと、sansaにみんなが行ってインポートの変わったビールとかを飲んでいれば、ビジネスマンとかはその動きを見過ごさないでいるんじゃないかなと。売り手だけではなく、飲み手側も意識していけば、変わっていくのかなと思いました。

大谷:なるほど。

森枝:来月から、sansaとSalmon & Troutで毎月ペアリングのコース料理をやっていくので、それにぜひ来てください(笑)

大谷:宣伝ですね(笑)最後に、橋本さんの代弁をしようと思うですが、ビールの楽しさっていうのはまだまだ発見できると思います。僕は、sansaが好きでよく飲みにいくのですが、家の近くのコンビニでビールを買って飲むこともよくあって。こうあるべきだということはないと思います。それもビールの自由さだと思うですが、シチュエーションに合ったビールの飲み方というのは、飲み手が思っているよりも広い世界があります。その楽しみ方を拡張してくれる場所としてsansaがあると思います。もし、興味を持っていただけたら、ぜひsansaに飲みに行ってビールの楽しみ方の入り口を広げてもらってみてください。



橋本:その話は、「不自由で自由なビール」というテーマに繋がっていて、お客さんには自由に楽しんで欲しいということがひとつあります。好きなタイミングで飲んでいいし、いろんな味の種類もあるので、その選択肢をなるべく広げてあげたいと思います。その飲み手の自由を広げていくために、僕らがグラスを磨いたり、ビールの知識を頭に入れたり、他のお店を回ってみたりすることは、やらざるを得ないという意味では不自由です。でも、そうやっていることが僕には楽しくて生きがいとなっているので、今回のテーマにさせていただいていました。

大谷:ありがとうございます。これでトークは終わりにしたいと思います。

EVENT INFOMATION

THE OYATSU Vol.6|不自由で自由なビール

DATE= 2016 / 7 / 25(Mon)
TIME= 19:30 open / 20:00 – 22:00
PLACE= FabCafe(東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア1F)
MORE INFO=
内容: OYATSUの実食 / トークショー / 懇親会
費用: 2,000円(ワンドリンク+オヤツ込み)
定員: 50名予定

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